早稲田大学本庄高等学院長 兼築信行
KANECHIKU Nobuyuki
(早稲田大学文学学術院教授)
一首は、2012年度の卒業式に、卒業生代表のTさんが答辞の中で披露した自作の短歌である。本学院が立地している埼玉県は本庄市、大久保山を中心とした浅見丘陵のほぼ全域を占める早稲田大学本庄キャンパスの面積は、広大にして85万9,726平方メートル。東京ディズニーランドが約51万平方メートルであるから、推してはかるべし。このキャンパスを舞台として、豊かな自然環境を誇り、「森に想い土に親しむ」教育が展開されている。
当地はまた、武蔵七党と称された武士団の一つ児玉党を率いた庄(荘)氏一族が、その本拠を置いた場所でもあった。庄氏の活躍といえば、源平一の谷の合戦(1184)の折に、平家の大将軍重衡を生け捕りにした功を特筆すべきであろう。重衡は平清盛の五男。玉葉和歌集に次の和歌が載っている。
キャンパスに隣接する名刹「宥勝寺」には、一の谷の合戦で討ち死にしたという庄小太郎頼家の墓(埼玉県指定文化財・旧跡)も存する。またキャンパス内には、数多くの古墳や種々の住居跡も確認されている。本学院は、不断に人が住み続けた、いわば重層する遺跡群、歴史的フィールドの上にたっているのである。
豊かな自然と、悠久の歴史とに抱かれた本学院は、紛うことなくurbanではなくcountryの学校と申さざるをえない。しかしながら、たくましい早稲田の早苗を育て上げる苗代として、これ以上につきづきしい場所も他にあるまい。こうした環境のもと、「自ら学び、自ら問う」を合い言葉として、ものごとの本質を自ら深く考究する姿勢を身につけた卒業生の全員を早稲田大学の各学部へと送り出すことこそが、本庄高等学院に課せられた使命なのである。
本学院の長を拝命する本職の本業は、早稲田大学の現役の教授である。専門は和歌史。この学院の比類無き特色として、大学教授の実物が一名、日ごろから校内を徘徊しているという一事を、ここに書き加えておこう。学院の生徒たちは、気軽に教授に話しかけ、触る(!)ことができるというのも、大学附属ならではの光景であろう。最後に、その学院長の腰折れを一首。
2013年9月6日 記