折々に下手な腰折れ短歌を詠じるのは、私自身が和歌の研究者であり、学院長として特色を出そうとの下心が多分にあることを白状しなければならない。もっとも専門は平安末~鎌倉期の和歌だから、とても現代的な歌は作れない。高校生時代に少し現代詩を書いていた時期があり、その後、文藝部の部長先生に短歌を見てもらったこともあったが、才能はまったく無いと言われた(俳句は一度だけ、県のコンクールで入選したことがあるが...)。
そんなわけで、本当に短歌を嗜んでいる方から見れば、噴飯物なのだと思う。ただし、私の詠は一般的な短歌ではなく、基本的に生徒の前で読み上げることを目的として作る点が変わっている。歌頭から読み下すのを、耳で聞いて理解してもらえるよう、また音に乗せて美しく響くよう工夫する。読み上げは、昔の和歌披講の「講師読み上げ」のスタイルに倣ったものなのだが、それはまた別の話とする。
2013年度中に詠んだ主なものは以下の通り。詞書を付けてみた。
体育祭の開会にあたって
五月雨の空とよもして若きらの声雨雲を晴るけ遣りてよ
九月、ホームページリニューアル、学院長挨拶文の末に
たくましく早稲田の早苗生ひ立ちていつしか秋の稔り豊けし
ブラスバンド部定期演奏会に寄せて〈萬・夢・志を詠み入る〉
真鍮の楽の調べに若きらのよろづの夢とこころざし聴く
修学旅行中、ソウルにて
韓(から)国の空晴れわたりチゲ・キムチ辛くはあれど心は甘し
稲稜祭のプログラムの中に
すこやかな身と心もて紺碧の空のしらべに跳びあがれ皆
同、まむし短歌コンクール選評に
君と手を繋いで歩むこの付近まむしに注意早稲田大学
WAISES2013の開会にあたって
天翔り山河越えて若きどちここに集へり大久保の山
三学期始業、前生徒担当教務主任川鶴教諭へ
名に負へば祝ひて贈る川の鶴飲みな過ぐしそ子も小さきに
保護者の会の新年会にて
教授吾を学院長と呼び捨てのワセダ本庄高等学院
入学決定者の集いと、卒業式で詠じた愚詠は、別に掲げられているから省略する。最後に、いつも昼飯を摂る近所の蕎麦屋を詠める歌。
店の名は螺か喇かさては裸ならむと思ひめぐらし蕎麦切たぐる
学院長 兼築信行